ぐわ、と鼓膜が破れるような爆発音が轟いた。
 眼前にのびる階段の表面に、レックスの全身を映した影が、まるで墨液インクを落としたように黒黒と鮮烈に描かれる。砂礫を含んだ熱波が、後背全体を叩きながらぶわりと過ぎていった。
 弾かれたように翻身したレックスは、視界に飛び込んできた凄惨な光景に、瞬間、気を呑まれた。
 誇りと喜びに満ちて端然と整えられていた平和な空間は、瞬きひとつするわずかな間に凄惨な戦野へと変貌せられていた。
 着弾跡を生々しく残してえぐれた足元。散乱する負傷者。砕けた煉瓦に交じって飛び散る血痕。そこかしこから立ち上る黒い煙や降り注ぐ魔火箭が天空を暗く蔽い隠している。

 ナンダコレハ

 ドウシテオレタチガ、コウゲキヲウケテイルンダ

 コレハウソダ

 コンナコトガオキテイイハズガナイ

 受け入れたくない現実を目の前に突きつけられた衝撃による自失を呈していたレックスの眼がそのとき、自分の麾下たちの姿を捕らえた。右往左往するばかりでいっかな統制のとれた行動を見せぬまま、遠距離魔法の箭鏃になすすべもなく倒れてゆく男たちを見た眼が、ぎ、と力と感情を取り戻した。
「あいつら……」
 歯軋りしてうめく。
 次々とくずおれてゆく部下たちの姿を見せつけられたレックスがまずに覚えたのは、怒りだった。
 俺の部下ものが、俺の目の前で、俺以外の何ものかに害を与えられている。

 それは、誇り高い貴族ならばまず絶対に許せず、かつ堪えられない侮辱だった。
 貴族は部下や領民を持つ。
 彼らは貴族に租税や労働力など有形無形のものを提供する代償として、貴族から保護や身分の保証などの利益を享ける。貴族と庇護民の関係は、一方的な収奪ではなく、相互扶助の役割分担によって成り立っているものなのだ。庇護民の生命や財産を保全せず、彼らを外部勢力の攻勢から護ることができない貴族は、庇護民を持つ資格など無い、無能な屑であるとの評価をくだされる。
 今現在レックスの目の前で行なわれていることは、その、無能であるとの評価を彼に押しつけて強要するものだった。自分の部下ものが、自分の目の前で他者にいいように弄ばれているのだ。どうしてそれを許せよう。どうしてそれに怒りを覚えずにいられよう。これを黙視していれば、レックスは、彼が自分の部下ものを護ることすらできない屑なのだと、その行為によって彼を嘲弄している相手の云い分が正しいことを、みずから証明してしまうことになるのだ。
「……くそっ」
 次いでその怒りは、醜態を見せる彼ら部下自身に向けられた。このような事態を危惧したからこそ、あの計画を練ったのではなかったか。
「何やってんだ」
 鋭く舌打ちしたレックスは大股に歩き始めた。大気を裂いて飛来する魔火箭も爆風も土埃も何も、もはや彼の視野には入ってこなかった。ひたすら、うろたえるドズル騎士の面々を見据えて進む。
 彼我の距離がある程度まで詰まったところで、レックスはおおきく息を吸い込んだ。
「こンの、……馬鹿どもめがあああ」
 魔弾の炸裂音も数多の悲鳴もかき消すような大音声を張り上げる。逃げ惑っていたドズル騎士たちが、凍りついたように動きを止めた。自分にじっと注がれる無数の眼を一つ一つ睨み返しながら、レックスは容赦なく怒鳴りつけた。
「何をやっている。家鴨か鵝鳥みたいにぎゃあぎゃあ喚きながら駆けずり回りやがって。お前らの頭は熟れ過ぎての入った瓜か。大根か。こんなことになったときにゃあどうするか、俺がさっき云ったことをもうすっかり忘れやがったのかっ」
「だ、だって閣下……」
 ギリェルモが半泣きの表情で応えた。
「あれは退屈しのぎ、想像のお遊びだったんじゃないんですか。どうして……なんだって自分たちが王国からこんな目に遭わされなくちゃいけないんですかぁ」
「んなこと知るかっ」
 レックスは冷淡に吐き捨てた。
「考えるのは後だ。後にしろっ。生きて、ここを出られさえすれば、考えたり悩んだりする時間はいくらだって、飽きるだけ持てるんだからなっ。判ったかっ」
 爆煙でおぼろにかすみ、輪郭も定かではない男たちの間から、おずおずと、弱々しい応答が返ってきた。レックスは両の眉を跳ねあげた。
「もっと肚の底から、力の入った返事を聞かせろっ。お前ら、それでもドズルの男かあっ」
「お、応っ」
 気合いの入った返事を叫ぶと同時に落ち着きも取り戻した麾下たちを、レックスは満足気に見やってうなずいた。
「よーしっ。ではこれから、最初に決めた通りに右手門に向かうぞ」
 云いながら、足元に転がっている煉瓦片のなかから適当なおおきさの物を選んで両手に拾いあげる。
「安心しろ。いくらアルヴィス卿が優秀な将軍だったとしても、立てた作戦を実際に行なう部下は、弾の配分や周囲との連携、それに弾煙による視界不良の害も何も考えていないこの撃ち方を見れば判る通り、こと人間を相手にした戦闘には素人だ。勝率はこっちのが高いぞ」
 レックスに倣って煉瓦片を拾いあげていたロヘリオが、金壷眼をきらめかせながら、さも愉快そうに口を開いた。
「これがヴェルトマーの第2公子閣下やフリージ公女閣下の部隊でしたら、もっと効果的な射撃をさせてましたよね」
「その通り。こと部下の練り具合を云えば、アゼルやティルテュのが優秀だな」
「命拾いをしました」
「本当だ」
 げらげら、哄う。周囲から、いかにも愉しそうな笑いが沸き起こって唱和した。
「よーし。そろそろ最初の弾切れが起きる頃だ。お前ら、行くぞっ。騙し討ちなんて騎士の風上にも置けない卑怯この上ない企みをしてくれた奴らに、ドズルの意地ってものを見せてやれっ」

「応!」

 野太く力強い吶喊が昏い天の下を轟轟と揺るがせた。

 

「……ふう」
 今度の「悖逆者およびその一党の処刑戦」において、王城前広場東第2門の守備を任された炎騎士団ロートリッター第23分隊隊長トマーシュ・フィゴル=ベロールムは、前身に吹きつけてくる熱波と魔法弾を射ちつくした倦怠で顎にしたたった汗の雫を手の甲で拭いながら、小さく息を吐いた。
 自然界に存在する魔法力を意志の力でもって体内に集積して汲み取り、魔法書を通して発動させる魔法攻撃は、理論上は、無限回数の使用を約束されている。が、それが人間の行動によって作られる現象の一種である以上、使用者が発動毎に疲労を覚えることは止められない。術行使者の疲労が魔法力を集積させるための集中力を乱すほどにつのったとき、彼――もしくは彼女は一時的に、しかし絶対的な魔法使用の不能に陥る。短時間の休息をとりさえすれば容易に解消することがかなうのだが、その間、魔法兵をまったくの無防備にさせるこの状態を、彼らは俗に「射ちつくし」「弾切れ」などと呼んで忌んでいる。無論彼らも栄えある騎士の位を冠している戦士なのだからして、剣などの接近武器も身につけているし、その鍛練も受けている。が、その扱いは、魔法に対するほどの自信に包まれていない。戦さ場で扱う自信のない武器の使用を強いられることくらい、厭なものはないだろう。現に今、少時使用不可となった魔法書を上着の衣嚢ポケットに収めて腰間の柄をまさぐるトマーシュの表情も陰欝に沈んでいた。
(済んだのか)
 部下に攻撃の命令を下して自分も最初の魔法弾を射ちこんでから、今、顎の汗を拭うまで、彼の記憶は見事に途切れていた。ただ漠然と、間切れなく魔法弾を射ち続けたような気が、まるで他人の行動を眺めていたような感覚で残っているばかりだ。
(思ったよりも、簡単だったな)
 今年25になるこれまで、トマーシュには、人間を射った経験が無かった。訓練場で動かない標的目がけて弾を放る以外に経験のない自分が、同じく実戦経験のない部下を率いて無事に任務を消化できるかどうか、この極秘命令を受けて以来、彼は心配でならなかった。昨夜などは心労がつのるあまり、一睡もできなかったほどだ。
 が、実際はどうだろう。悩んでいたのが嘘のような簡単さではないか。いつもの訓練と同じように、何も考えずにただひたすら射ちまくれば良かったのだから、まったく、悩んでいた自分が莫迦にも思えてくる。
(実践にしかずとは、こんなことを云うのだろうか)
 ふ、と口元を持ち上げたそのとき。
「隊長も射ち止めですか」
 攻撃を止めたトマーシュに気づいた部下のひとりが持ち場を離れて暢気な声で話しかけてきた。
「ああ。残念ながらね」
 馴々しい部下(確か最近入隊したばかりだったな)の名前を咄嗟に思い出せなかったトマーシュが外套の下で肩をすくめて応えると、彼は、なぜか嬉しそうにくくく、と咽喉を鳴らして頷いた。普通にしていれば整っていると云っても良いかも知れない顔が、餌を頬張った栗鼠のような印象を帯びるさまを、トマーシュは横目でじろり、苛立たしげに睨んだ。が、青年はいっかな気にした様子もなく、わざとらしい所作で腕を組んで小刻みな点頭を繰り返した。
「自分もなんっすよ。いやあ、よく射ちましたねえ。自分、一度にこんなにたくさんの魔法を射ったのって、実はこれが初めてなんっすよ。いやあ、爽快っすねえ。魔法射つのがこんなに爽快だったなんて、自分、知りませんっしたよう」
 右の手をひさしのように両目の上に渡して遠方を見やった彼は、うっひゃあ、と素っ頓狂な歓声をあげた。
「よく燃えてるっすねえ。燃えてる……って云いますか、すんげえ煙っすね。煙のなかに赤い火がちろちろ見えるって観じじゃないっすか。なーんでこんな煙ばっかでるんっすかね。これじゃあ、せっかくの成果が確認できないじゃないっすか。自分、結構的に当てたと思うんっすけれどもねえ。特にあれ。あの、式の直前に外に出せなんて云ってきた間抜け野郎のいたあたりに、結構射ち込んだつもりなんっすよう。自分」
「……ヤクップ、」
 緊張感をまるで無くして無駄口を叩いている部下の名をようやっと思い出したトマーシュは、重々しい声を腹の底から搾り出した。
「ヤクップ・ジアラク。いい加減に無駄な多弁はつつしめ。ここは戦場だぞ」
 が、ヤクップはこの上官の命令には応えず、じっと、前方を凝視し続ける。
「ヤクップ・ジアラクっ。返事はどうしたっ」
 トマーシュは躯ごとヤクップに向き直って彼を怒鳴りつけた。
「……」
 トマーシュが睨めつけるなか、ヤクップ・ジアラクの躯は緩緩と後方に傾いでゆき……薄い土埃を立てて仰向けに沈んだ。倒れた反動で数度、小さく跳ねた後は、ぴくりとも動かない。その鼻梁が円く深く陥没しているさまを見てとったトマーシュは、鋭く音を立てて息をのみこんだ。
「ヤクップ?」
 動揺して視点の定まらない視野が、ヤクップの足元近くに転がっているこぶし大の煉瓦片を映し出した。それがいったい何なのか、ヤクップの異常にどう作用したのか、トマーシュの頭が気取るよりも先に。
 彼の耳が、煙火音とは違う、別種の音を拾い上げた。

 おおおおお……

 轟轟と腹に直に響くその音が人間の声だと気取ったトマーシュのこめかみにそのとき、どごっ、と重い音が打ち当たった。瞬間的に急激な運動力を与えられた首が、本人の意思を無視して横方向に泳ぎ、躯をつれて地面に滑り落ちた。頬を砂礫ですりむいた頃、ようようトマーシュは自分の身に起きた異常事態を認識した。
(攻撃?いったいどこから……)
 立ち上がって方角を見極めようともがいたが、焦る意志に反して躯は動いてくれなかった。激痛を通り越した痺れの波がこめかみを起点として広がってゆき、トマーシュから全身の運動機能を奪い去っていた。
(早く立ち上がらなければ。立ち上がって隊の被害を見極めて、それによって対応をせねばならない)
 とは思うのだけれど、どれほどに叱咤しようとも彼の肉体は、指先がいたずらに砂を引っ掻くだけで、それ以上の力を入れることが適わなかった。
 早く、早く、とトマーシュが焦燥に駆られていると。煙幕から飛び出した人影が、受けた衝撃の反動で門扉の方角へ軽く吹き飛ばされた彼の躯に馬乗りになって、その腰間から素早く武器を奪い取った。幾条もの黒煙を棚引かせた蒼穹を背景に負っているため薄く影を帯びて見える相手の顔を、トマーシュは抵抗ひとつできぬまま、茫然と眺めた。
「――っしゃあっ。ったぞっ」
 勝ち誇った、無邪気とも云える勝鬨が降ってきた。トマーシュの上で素早く剣を抜き、一時不要となった鞘を手早く帯に手挟んだその男は、次いでちろり、トマーシュを見下ろした。
 強い光を蓄めた青藍の眸が、トマーシュの薄緑の眸を射抜く。
 それは極短な瞬間だった。そのわずかな間に、彼はトマーシュの処遇を決めたらしい。――否。もとから決まっていたのか。
 幅広な白刃――トマーシュが成人したときに父親から譲り受けた、自慢の逸品だ――が昼の光を受けてきらめいた。
 胸に鋭い痛みのような衝撃が走り、反射的かつ瞬間的に上体が仰け反った。口中に鉄錆臭い味がいっぱいに広がった。躯にかかっていた重みが急に失せた。が、トマーシュの体躯にはもはや、立ち上がるだけの力も残されていなかった。段々に暗く狭まってゆく視野の端に、煤煙に汚れた仕立ての良い上質な外套をまとった広い背中が見えた。
「そぉら、おまえら。どうした。まさかこの俺様が誰だか判らん訳じゃあないだろう。来んのか。大手柄を立てる好機だぞ。シグルド麾下ドズル騎士団団長レックス・ネルヴ=ビヌリジ卿の首級くびを獲ったとなれば、おまえらの主君は、おまえらが望むままの褒美を出すんじゃないのか」
 揶揄を含んだ挑発が、耳鳴りの向こうで小さく聞こえた。
「どうした。来んのか。ヴェルトマーの男どもは、他人の背後から魔法弾を射ちこむことはできても、正面きっての切り合いはできん臆病者揃いなのか」
「おのれ、愚弄する気かっ」
「気も何も、してんだよ」
「くそっ。反逆者の分際でよくも云ったなぁっ」
 乱れた跫と剣戟の音。肉を断つ鈍い音に断末魔が重なった。
「はっはぁ。弱い弱い。こんななら、ヴェルダンの男たちの方がよっぽどに手応えがあったぞ――
 耳鳴りは次第次第におおきくなってゆき、ついには周囲の物音全てを飲み込んで彼から聴覚を奪い取った。
 視界が完全な闇におおわれてしまう寸前。
 赤みを帯びた濃い金髪と紫がかった蒼い眸を持つ娘の面影が、トマーシュの脳裏をよぎった。
(アデーラ……)
 早くも乾きかけた血泡のこびりついた唇がわずかに動いて幽かな吐息を出した。
 そうして。炎騎士団ロートリッター第23分隊隊長トマーシュ・フィゴル=ベロールムの意識はユグドラル大陸上から永久に失われた。

 戦場における魔法攻撃の利用ががさまで一般化するまで、飛礫は、箭鏃に次ぐ殺傷威力を誇る効果的な武器だった。組み立て式の器具を設置して一抱えもあるような礫弾を発射する大がかりなものから、布に包んで振り回す遠心力や、携帯式の木板や金属箆の反発力を利用して発射する投弾に、手に握った小石を腕の力で飛ばすものまで、戦場で飛礫弾が飛翔する光景は、探す必要もないほど、当たり前のものとして見かけることができた。公式の祭典であることを名目にシグルド軍から武器を奪ったアルヴィスも、彼らがこの種の攻撃力を手に入れることだけは妨害できなかった。
 そもそも王国の威信と栄誉を体現化した近衛騎士団を率いていた関係上、これまで外国軍と死戦を繰り広げた経験のなかったアルヴィスに、礫弾の利用知識があったかどうかも疑わしい。彼の常識では、誇り高いグランベル王国の軍隊に属する人間が、まさか辺境の蛮族のように石くれを投げて攻撃をはかるなど、信じられないことだったのではなかろうか。
 が、たとえ誇り高い騎士には「蛮族に似合いの武器ではないか」「蛮族と刃を交じあわせている間に奴らの流儀に染まったか」などと嘲弄されようとも、礫弾が殺傷威力の高い武器である事実に違いはない。魔法攻撃が広まる以前は、おおよそ3割余の戦死者の躯に、礫弾による致命傷の痕が見受けられた、との記録もある。致命傷だけで3割なのだ。負傷者、およびこれによる傷が遠因で他の武器に斃された者も入れれば、この武器の効果のほども想像ができよう。そうして、一度でも血戦を経験した人間にとってそれは、使わずにいるにはあまりにも惜しい道具だった。他に手元に武器が無い場合には特に。よって、彼らは躊躇わなかった。躊躇せねばならない安い誇りなどははるかむかし、ヴェルダンの森のなかに捨て去っていた。
 礫磚で急所を殴打し、即死と行かないまでも戦闘意志を喪失した体躯に素早く的確に止めを刺し、彼が身に帯びていた武器を奪う。レックスを先陣として門扉守備隊に真っ向から突入してきたドズルの男たちは、陰惨な戦闘にも眉宇ひとつ動かさず、ただ双眸を爛々とぎらつかせてそれを行なった。
 戦さの経験は、ひとの意識を解体、再編成する。
 3年前に故国を発って以来、数多の激戦をくぐり抜けてきたレックス以下ドズルの騎士たちと、その間故国防衛の任にあり、実際には一度として戦火を経験しなかったヴェルトマー騎士たちとの間には、戦さに対する心構えが違っていた。
 彼ら経験者は、戦さ場が酔わねばならない場所であることをはだで識っている。酔って狂い、日常をつかさどる理性を忘れ果てて捨て去らなければならない場所であることを、彼らは識っていた。
 通常の判断力を持った人間ならば誰だって、他者を斬り、殺すことにためらいを覚えよう。訓練場に立てた人型に弾を命中させること、戦さ場で実際に生きて動いている人間に魔法攻撃をすることは、必要とする気構えの量からして違ってくるものなのだ。それは理解の足不足の問題ではない。人間を人間たらしめている心の問題なのだ。
 戦さ場は人間を殺す場だ、そこに立ったならば人間を殺さねばならない、と頭で理解していても、心が抵抗の悲鳴をあげる。心の苦悩は素直に躯の運びに現われる。それは極わずかなものであったとしても、隙となって相対する人間に好機を与えてしまうのだ。だから。
 死にたくなければ、一時的に酔うほかない。酔って狂って理性を、日頃の善悪の判断を捨て去らねばならない。
 ドズルの男たちはそれをしてのけていた。
 くぐもり詰まったような悲鳴がひとつあがるごとに血飛沫が宙を舞い、地面に血溜りが増えてゆく。
 凄惨な光景に参ったのは、ヴェルトマーの人間だけだった。彼らは同輩の悲惨な最後に気を呑まれ、全身に返り血を浴びた大男たちの姿に怯え、辺りに漂う血の臭いに慄えた。恐懼に正体を無くした彼らのある者は武器を手放して命乞いをし、またある者は門を開いて逃走をはかり、そして残りの者は自棄がかった捨身の攻撃を行なって返り討ちにされた。
 レックスを長とするドズル部隊は、たとえ空手であったとしても、ヴェルトマーの騎士小隊に相対できる存在ではなかったのだ。
 王城前広場東第2門は、瞬く間にドズル騎士の手に落ちた。
 素早く部下を走らせて、アルヴィスが王城前広場しか部下に囲ませていなかった事実を確認したレックスは、内心呆れた。
 罠だろうか――と一瞬疑りもしたけれど、ラモンの報告によれば、そんな気配は微塵もなかったと云う。レックスたちの馬は最前彼らがつないだときのままでいたし、馬場から王城敷地外へ通じる小道を往復してみても、何ら妨害は受けなかったそうだ。
「要するに、裸にひん剥いた俺たちを包囲した時点で、この完璧な包囲網を抜ける人間はいないと、そう考えたんだな」
 いかにもおのれの能力に強大な自負心を持っているアルヴィスらしいと、そう思う。計画は完璧だから、蹉跌の場合を考える必要はない、と云うわけか。
(シグルドなら、どんなに優位な立場をしめてたって、それが崩れた場合の予備策を2つ3つ準備しておくのにな)
 もっとも、その強大な自負心のおかげでこちらは助かったのだから、文句も云えないが。
 レックスは煤煙と返り血に汚れた顔を外套の裾で拭いながら満足気にうなずいた。
「よーし。では、負傷者をまとめて馬の処まで運ばせろ。――ラモン、おまえの隊でできるな」
「十分です」
「それがすんだらここの確保を続けつつ、他の奴らの避難を誘導しろ。云わずもがなだろうが、戦力になり得る奴には武器の提供を忘れるなよ」
「了解しました」
「残りは俺について来い。どうやら余所は俺たちほどに巧くやれてない様子じゃないか。しようがないから助太刀してやるぞ」
 云うが早いか独り駆け出したレックスの後を、ドズルの男たちは慌てて、しかし戦さ場に不似合いな微苦笑を浮かべて追いかけた。

 王城前広場東第3門は、2門と同様――もしくはそれ以上に平易に堕ちた。レックスが守備隊の最初のひとりに斬りかかった頃には、シグルド軍を構成する他の面々もさすがに不意打ちの衝撃からは回復しており、隊列を立てなおして反撃体勢に入っていたのだ。
 レックスが制圧したとは反対側の広場西壁のあたりでは、天馬の助勢を受けた集団が活路を切り開きつつあった。シレジア国外に出ることがめずらしい天馬の美美しい姿でアズムールの目を楽しませよう、とのシグルドの思惑が役立ったのだと云えよう。もっとも天馬の入場許可を求めた当時のシグルドは、こんな意味で天馬が活躍しようなどとは露ほども考えていなかったのだろうけれど。とまれ、上空からの落石攻撃など経験したことの無かった近衛騎士団は、この予想外な方向からの攻撃に慌てふためいていたところを急襲されて、あえなく持ち場を放棄した。
 東側には天馬の加勢こそ無かったものの、ベオウルフやジャムカたち、謂わば死闘慣れした逆境に強い男たちの部隊がドズルの戦闘に合流してくれた。混成部隊は、それこそ須臾の間に守備隊を押し潰し、余勢をかって正門周辺に発生していた混戦に突入した。
 が、アルヴィスが、おそらくは、持てるうちでもっとも優秀な部隊を投入したのだろう正門付近は、さしものレックスたちも軽易に破砕する訳にはゆかなかった。
 正門を受け持たされた部隊は、炎騎士団や近衛騎士団にしてはめずらしく、実戦慣れしていた。レックスたちが到着する以前に、烏合の衆と化した人々を多数射ち、斬っていたことで躯も精神も高揚していた。魔法攻撃にも怯まず、隣に並んで走っていた戦友が斃れてもめげなかった集団が距離を詰めて突入し、彼我入り乱れての混戦に持ち込んだため、同士討ちを誘う魔法攻撃こそは封じこまれたものの、手に馴染んだ武器を握り、常に3者1組となって着実に相手方を屠ってゆく彼らの戦闘法には、レックスたちも退却を決意せざるを得なかった。
「正門を突破しようとは考えるなあ」
 血と脂がべっとりと絡みついた刀身で、向かってきた相手の鼻柱を叩き割りながら、レックスは声をかぎりに叫び続けた。普段ならば大気を裂いて大地を震わせるだろう大声も、今、無数の剣戟に吶喊、断末魔の悲鳴が絶え間なく合わさってわぁんと鳴り響いているこの場では分が悪い。いったいどれほどの耳に自分の声が届いているものやら、レックスにも自信が無かった。混戦のなか、いつの間にか姿を見失ってしまったジャムカはこれを聞いているだろうか。ベオウルフにこの声は届いているのだろうか。もしかしたら、誰も聞いていないかも知れない。それを証拠に、見える限りの範囲で広場の東に向かう様子を見せている人間は皆無だった。皆、遮二無二正門をくぐり抜けようと、激しい攻撃にさらされながらも前進を続けている。自分から急いで死のあざとへ駆け込もうとしている彼らに、レックスは必死に声をかけ続けた。
「東壁に行けえ。あっちは安全だあ。馬場から王城の外へ出られるぞお」
 鼻血を吹いてたたらを踏んだ男の腹部に第2激を、ほとんど腕の力だけで射し込む。引き抜いた刃には、血と脂が膜のようにべっとりと張りついていた。
「……ちっ」
 舌打ちして剣を上下に振る。数滴の血糊がゆるやかな弧を描いて宙を跳んだ。が、そんなことで汚れた刃がきれいになるはずもない。切れない刃はますます切れなくなってしまった。が、取り替えようにも代わりを探している暇が無い。3人組――個人の栄誉を尊ぶ騎士の戦いとは思えない戦法だが、「悖逆者およびその一党」の処刑だから特別に許されたのだろうか――の残りが、左横から中段で斬りかかってきた。
「……っとぉ」
 大振りの攻撃は難なくかわせたが、レックスが避ける軌跡を予測していたように、残りのひとりが打ちかかってきた。
(拙いっ)
 躯の軸が傾いでいたため、咄嗟の反応が遅れた。これでは避けることはかなわない。襲い来る刀身の軌跡を冷静に分析したレックスは、せめて深手を負わぬようにと、わずかに躯をひねった。腹筋に力をこめて来たるべき慙撃を待ち受ける。と。
 不意に、相手の幼いと云っても良い丸い顔が驚いたように歪んだ。突撃の勢いが停止する。
(何だ)
 いぶかるレックスが見つめる中、薄灰青色の眸を喫驚に見開いたまま、ふっくらとした唇をわななかせた彼女がくずおれた後ろから、鮮烈な美貌に大量の返り血を浴びた美女が現われた。
「アイ、ラ……」
 レックスは茫然と彼女の名をつぶやいた。彼女のことだから、きっと大丈夫、無事なはずだと確信してはいたけれど、しかし実際に無事な姿を間近で目にしたとき覚えた喜びは予想以上だった。戦さ場に充満する殺伐とした空気に顔を強ばらせ、切れ長の目を釣り上げてすらりと立つアイラは、返り血に全身濡れた凄惨な姿にもかかわらず、美しかった。気のせいか、神々しい神気オーラまで見えるようだ。こんなにきれいな彼女を目にしたのは初めてだ、と、場所柄も何もを忘れてレックスは感嘆した。
(戦さ女神ってんのは、きっと、こんな姿してんだろうな)
 その戦さ女神はしかし、おのれの崇拝者に祝福の笑顔を与えるような心持ちではなかったらしい。そもそもイザーク流剣術の神髄を修めた身の上で、戦さ場であれどこであれ、無駄な切り合いを交わさない、交わす前に敵を屠っているはずの彼女がさまで他者の血に濡れていることは異常なのだ。呼気こそまだ切れていないものの、血塗れた姿はそのまま、彼女が駆け抜けてきた風景のすさまじさを表していた。返り血に濡れて半ば固まりかけた黒髪をわずらわしげに後ろに撥ね除けながら、アイラはさも不快げに、鼻にしわを寄せて云った。
「何をやっておるのだ。どうせまた、目の前の敵を斃すことに夢中になって、周囲へ配るべき注意を怠っておったのだろう。おまえはいつもそうだ。いま少し勢いを押さえることを憶えぬと、いくつ生命があっても足らぬぞ」
「ああ、悪い悪い」
「本当に悪い」
「うんうん。助かったよ。本当に。ありがとうな、アイラ」
 にっこり、素直な微笑をたたえて礼を云う。アイラの表情がふっと和らいだ。「しようがないな」とでも云うように小さく肩をすくめた彼女は、自然な所作でレックスと背中合わせの位置に立った。
「妾の背の護りは任せたぞ。しかと励め」
「仰せの通りに」
 目は新たに向かってきた敵方を睨めつけながら、レックスは情感を満たした声で慇懃に応えた。

 背面およびそれにともなう死角を無くした戦さ神の前には、いかな3人組と謂えども敵ではなかった。彼らに相対するとはすなわち自身の死を意味すると悟り始めた兵士たちは徐々にレックスたちから距離を置き始めた。かと云って彼らを放免するつもりは無い様子だ。
「拙いな」
 自分たちを中心に円弧を描き始めた炎および近衛騎士団の面々を睨めつけながら、レックスは咽喉奥で小さくうめいた。彼らはけして、レックスたちの剣の間合いの内側に入ってこようとはしない。レックスが一歩踏み出せば彼らも一歩下がり、一歩下がれば一歩出てくる。等距離を保ったまま、ひたすらこちらの隙をうかがっている。
「奴ら、撃ってくるつもりだぞ」
 肩越しにささやくと、アイラも苦々しげに小さく首肯した。
「そのようだな。まったく無茶をする。この距離で魔法を撃てば、同士討をすることは判り切ったことだろうに」
「ンなことも判らなくなるほど頭に血が上ったか、俺らが恐いのか。どっちにせよ、ちょっと張り切り過ぎたな」
「奴らが弱すぎるのだ」
「まったくだ。弱い奴らほど、すぐに恐怖でおのれを見失う。困ったもンだ」
 ふいと息を吐いたそのとき。
 王城の辺りでどよ、と歓声が沸いた。
「何だ?」
 疑問はすぐに晴れた。水面に波紋が広がってゆくように、ひとつの内容が口伝えに叫ばれて広場全体に運ばれたのだ。

『悖逆者シグルドの処刑は完了した』
『悖逆者は死亡した』
『王国万歳。国王万歳。王太女婿殿下万歳』

「うそだろう」
 レックスはかすれ声でささやいた。愕きがあまりにおおきく激しくて、それ以上の声が出てこなかった。顔から血の気が落ちて行く音が耳の奥に聞こえた。
「うそだろう。シグルドが死んだだなんて。そんなはず――」
 驚倒が警戒を途切らせた。
「レックスっ」
 アイラが悲鳴をあげた。左腕をつかまれたレックスは、彼女ともども横向きに滑り込むような勢いで地面に倒れこんだ。半瞬遅れて魔弾の炸裂音が間近で響き、右足に激痛が走った。
「あうっ」
 アイラが、彼女にはめずらしい、繊く痛々しい悲鳴を漏らした。
「アイラ、どうしたっ。平気かっ」
 慌てて立ち上がったレックスは、右足から発して脳髄に駆け上っていった、灼けるような痛みに息を呑んで歯を喰い縛った。目で確認してみるに、魔弾の直撃こそ逃れられたものの、飛んできた煉瓦片か何かが当たったらしい。厚い革靴の側面外側がざっくりと刻まれて血をしたたらせていた。加えて最悪なことに、同じ破片にやられたのか、アイラの左足もが深く切られていた。
(骨もやられたかな)
 自由に動かない足の具合を自分なりに診断したレックスは、改めておのれの未熟を呪った。
(こんなことで動揺して敵に付け込まれるとはな)
 自分だけの醜態ならまだしも、アイラまで巻き込んでしまったことは悔やんでも悔やみきれない。レックスを救ける余裕まであった彼女だ、彼が自失しておらず、庇う必要がなかったならば、こんな攻撃、容易に避けていただろうに。
「すまん、アイラ」
 苦い声でつぶやくと、負傷した足を庇いながらも立ち上がって剣を構え治したアイラは、さもおかしそうにくすくす咲った。
「おやおや。おまえが素直に謝るとは、どうしたことか。明日は雨か。それとももしかしたら雹が降るのか」
「云ったな」
 ふたりの負傷に勢いづいて向かってきた男のひとりを切り捨てて、レックスは苦笑した。
「俺だって、云うべきときには云うんだ」
「ほう」
 まるで信じていない声がなんとも癪に障った。
「あのな、こうなったら云っておくけれどもな、」
「止めろ」
 10合も切り結んだはてにようやっと相手を斬り伏せたアイラは、冷たな口調でレックスをさえぎった。
「云っておくがな。妾は、今生の別れの言葉などまだ聞いてやる気はないゆえな」
 まさしくそれを口にしようとしていたレックスは顔をしかめた。
「そうは云うがな、今云わなけりゃ、いつ――」
「いつでも云えるだろうっ」
 苛立った返答が背中ごしに破裂した。
「この囲みを抜けたらいつでも、何度でも、どんなことでも聞いてやるっ。だから今ここでそんな弱気な泣き言をつぶやくなっ。力が抜けるわっ」
 アイラの気持ちは痛いほどに理解できた。なろうことならレックスだって、こんなところで死にたくはない。――が。
(どうしたってなあ……)
 刻々と包囲を狭めてくる兵士の群れを見ていると、これを突破するのは、健康体であっても至難の業だと思えてくる。だのに加えて今のふたりは揃って足に深手を負っているのだ。立っているのがやっとな傷を負い、失血によって刻々と体力を削り取られているこの状態で、この窮地を抜け出せるはずがないことは、普通に考えればすぐに知れる事実だった。
(でもまあ、アイラと一緒なら、いい死に方だよな)
 半ば以上あきらめたレックスがため息を虚空に放ったそのとき。
 大地を踏み躙る馬蹄の轟きが勃然と沸き起こり、レックスたちを包囲していた厚い壁の外側が乱れを見せ始めた。
(何だ)
 思う間もあらばこそ、軍馬の群れが逃げ惑う群衆を蹴散らし、踏み潰しながら現われた。空の鞍を乗せた数頭の手綱を引いて駆けつけた一隊は、手際よく散開して、なおも残っていた仲間たちの収容にあたり始めた。
「閣下。遅れて申し訳ありませんでしたっ。思った以上に支度に戸惑ってしまいまして――」
 唖然とするレックスの眼前に栃栗毛を乗りつけたラモンが周囲を牽制しながら叫んだ。
「ラモン!助かった。おまえの顔が守護天使に見えるぞっ」
「はい。負傷者を含めた残りの者はみな、馬場を出たところで待機しています」
「よくやった。誉めるぞ」
「ありがとう存じます」
 剣を鞘に収めたレックスは、彼が引いてきた青毛の鞍にアイラを放り投げるように乗せた。
「レックス、お前も早くっ」
 素早く差し伸べられたアイラの手をとって彼女の後ろにまたがったレックスは、ラモン以下に命じた。
「よーし。撤退だっ。全員、気合い入れて逃げろよぉ」
 日頃完全武装したレックスを乗せて戦野を疾駆することに慣れていた彼の愛馬クラッホは、あるじの命令を受けて軽々と飛ぶように駆け出した。あたるを幸い、足下の兵を蹴り飛ばして広場を駆け抜けたレックスは、脇に並走するラモンにふと尋ねた。
「そう云えば。ラモンおまえ、さっき支度って云っていたが、何をしたんだ」
 聞かれたラモンは、まるで悪戯をたくらんだ子どものように得意げに目をきらめかせた。
「はい。このように大々的な攻撃を受けた以上は我々が王都ここにとどまり続けられないことに関しては、閣下もご同感くださるかと存じます。そうして、これからどこへ行くにしても、まず絶対に食料が必要です。空腹のままでは追撃をふり払うことはもちろん、前に進むこともできませんからね。が、だからと申しまして沿道の商家や農家を襲うことは論外でしょう。ですから、まったくに私の独断ではありましたが、王城の厨房に食料の提供を願ってきました」
「は――っ」
 絶句したレックスにラモンはにやり、莞って皓い歯を見せる。
「質量ともに豊潤なことで知られる王城の食卓も、今夜ばかりは、質素な献立で堪忍してもらう以外にないでしょうな。何せ、下働きの食べる麺麭から乾酪チーズに肉類、くだものと、運べるものは手当たり次第にもらってきましたから。革袋には、陛下が飲まれる特上の葡萄酒まで詰めてきましたよ。今夜は宴会ができますな」
「は、……ははは」
 空の食卓を前に茫然とするアルヴィスの表情を想像してしまったレックスはたまらず、天を向いて哄笑した。哄っているうちに、先刻思い詰めた感情が風に溶けて消えて行く気がした。
 馬場の出口に陣を張り、レックスの到着を待ちわびていた人びとが、遠目に彼を見つけて歓声を揚げた。鷹揚に右腕を持ち上げてそれに応えるレックスに、ラモンが尋ねた。
「して、閣下。これからいずこへ向かわれますか」
「そうさな。……」
 何気なく下ろしたレックスの目線と、肩越しに彼をふりかえって見ていたアイラの眸が絡み合った。とたん。そこに置いたまま存在を忘れていた物に改めて気がついたように、レックスは答えるべき言葉に気がついた。
「俺たちが行くところっつったら、ひとつしかないだろう」
 にやり、アイラに莞いかける。すべてを話す前にその内容を気取ってくれたのだろう、アイラも愉しそうに咲いを返してくれた。前に座る彼女を抱く腕に力を加えて、レックスは堂々、宣言した。
「俺たちのくに、イザークだ。――おまえら、行くぞっ。覚悟はいいなっ」
 返り血に自身の流血。泥に煤。生来の顔立ちも髪の色も判らないほどに汚れた集団は、しかし驚くほど威勢の良い応答を聞かせてくれた。




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